店長おすすめの一枚 2003年5月 |
ユッスー・ンドゥール/ナッシングス・イン・ヴェイン
曲目 |
またまたユッスーのアルバムの紹介です。 15枚目の紹介で同じ人が2回目、まずこのアルバムを紹介しようと思った経緯から。 このページで紹介する作品は誰でも知っている物ではなく、僕が気に入り多くの人に聞いて欲しい作品を紹介していますが、地域やジャンル等はバランスをある程度は考えています。 昨年発表されたサリフ・ケイタの「モフー」を当店のお客さんでもある知り合いから紹介されました。 サリフはアフリカのミュージシャンで、ユッスーとともにワールドミュージックを代表するようなアーティストで僕も大好きな人だったんですが、ここ数年は今ひとつピンときませんでした。 が、この新作が凄く良かった。 早速このページで紹介したいのですがアフリカの作品はフェラ・クティの「ゾンビ」を紹介しようと決めていたので、その作品は「次のアフリカの時に」と決めていた。 そこへ今年2月このアルバムが発表された。 ユッスーは一番好きなアーティストなんですが、ここ数作はいいんだけれど記憶に残らない物が多かった。 細かい事は後程記述しますが、このアルバムは凄く気に入ったんですよ。 ユッスーとサリフ、どちらも好きな作品で悩んでいたんですが、未紹介のサリフを紹介しようと心が固まってきた頃あるニュースを耳にしました。 3月10日、その日僕は東京にいました。 高田馬場のFMラジオを流している中古盤屋にいる時の事です。 ラジオのパーソナリティーが「アフリカ人ミュージシャンのユッスー・ンドゥールが、3/26〜5/15まで全米各地で計38公演を予定していたアメリカツアーの中止を発表。理由はイラクに対して戦争をけしかけるアメリカ政府の姿勢に反対して。」と伝える。 「ユッスーらしいな」とも思ったんですが、このニュースを日本のラジオが伝えている事にビックリ。 その後パーソナリティーが「反戦を訴えるんだったらコンサートをやって、訴えていけばいいのに。」とコメント。 そうじゃないんですよね、こうやって日本にも紹介されるくらいの効果がこの中止にはあったんです。 ユッスーのツアーとしては最大になるものだったこのツアー、大勢の人が見たとしてもせいぜい20万人。 全世界に配信された事を思えば彼のメッセージはこの形の方が届いたでしょう。 しかしミュージシャン、スタッフ、事務所としては苦渋の選択だったんでしょうね。 それでも中止を選択する彼の自分の立場・影響力に対する認識、そしてグリオとしての誇りには頭が下がります。 この作品初回に紹介した「セット」とは大きく内容が異なります。 以前はタマ等の伝統的な楽器を一部使い、モダンなものとの融合を試みてユッスーにしか表現できない音楽を作り上げていましたが、この作品はユッスーとしては異例なアコースティックな作品で、伝統的なアフリカの楽器がふんだんに使われており、その肌触りは上質な絹のように織り上げられています。 ユッスーの歌声もその力強さは変わりませんが、のびやかでリラックス感があり優しささえ感じられます。 先程「グリオ」と何気なく使いましたが、マルチのことではありませんよ。 「グリオ」とはアフリカで昔から代々王族に使えたりしていて、王の相談役だったり歴史の伝承者だったり人や国を導く立場・家系の事なんですが、ユッスーもそのグリオの家系の生まれ。 多くの歌にメッセージがこめられているんでしょうが、声高に叫ぶのではなく穏やかな姿勢で優しく歌い上げています。 ジャケットの写真はボールを蹴って遊ぶアフガニスタンの子供達。 この写真だけでユッスーの気持ちが伝わります。 アメリカが世界に対してアメリカ支配の踏み絵を迫ったこの戦争(戦争はまだ続いています)の行方は僕にはわかりませんが、この作品が永遠に色あせない事だけは僕にもはっきりとわかります。 全世界の人必聴です! |